国語教育デジタルポートフォリオ

考えたこと、知り得たことをあれこれ記録

やさしい日本語

国語教材研究会。題材は「やさしい日本語」(佐藤和之 光村図書中2)。
日本にいる外国人に情報伝達するには、英語を始めとする外国語によるのがよいとされていたが、阪神淡路大震災の経験から、災害発生時には翻訳などの体制が整わないので、やさしい日本語による伝達を研究者たちが工夫するようになった、という内容。
まず話題になったのは、この内容を生徒が面白がるのかということ。手引きを見ると、「序論」「本論」「結論」という構成を考えさせたり、まとまりごとのキーセンテンスとそれ以外の部分との関係を考えさせたりしている。面白くなさそう。
そこで、昨年、投げ込みで実践したときの紹介。まず、冒頭に載っている阪神淡路大震災のときのニュース原稿の例文を見せ、やさしい日本語に書き直すという作業をさせた上で本文を読ませた。自分の考えを持ち、それと比較させながら本文を読ませることをねらった。
次に、教材中のポスターを拡大したプリントを作り、そこに工夫している点を書き込ませた。本文中に書かれている工夫がどのように現れているかを考えさせることで、本文を読み込ませようとした。
以上が昨年の実践の紹介。
この教材文を採用した意図は、情報伝達や言語に関する内容であることと、非線形のテキストであるということにあると考える。また、内容的にも東日本大震災を経て、この教材文の重要性は増していると考えられる。そこで「序論」「本論」「結論」は、さらっと流し、中身の話をしたい。
今日の会では、参加の方々に白い紙とマジックを渡し、外国人向け「計画停電のポスター」をつくってもらった。
必要な情報を考え、やさしい日本語を使用し、重要な言葉はあえて漢字でも示し、地図や絵を使って理解を助けるのだ。自分もやってみたが、なかなか難しい。
活動後、著者の研究室のサイトにある計画停電のポスター例を分けて感想を言ってもらった。「停電(電気がとまること)」という表現と、「懐中電灯とラジオを用意すること」という注意書きに、なるほどという意見が多かった。何に注意させるのかを具体的に書くのが難しい。
自分としては、このように活動をさせながら、本文を読み込ませるような形で今年はやってみたい。

ところで、今回資料を集めていて気がついたことがある。それは「やさしい日本語」が「サバイバルのための言語」だということだ。Webページに佐藤さんがはっきりと書いている。本当は外国に暮らしている外国人こそ、災害時に詳細な情報を求めているはずだ。だから、「支援する組織が立ち上がり、英語やそのほかの言語で情報が提供できる」までのサバイバル言語、つなぎの言語が「やさしい日本語」なのだ。「外国人相手には「やさしい日本語」で」という話ではない「やさしい日本語」も万能ではないのだ。
そのことに関係して、実は、最初は参加の方々に放射線に関するポスターを考えてもらおうかと思った。著者の研究室のサイトに例もあったし。でも、「外を歩いても安全です。」「水は飲めます」と書くことは、単なる「やさしい日本語」化する作業とちがう問題を含んでいる気がしてやめた。
教材文中での「やさしい日本語」化例でも、「気象庁では、〜おそれもあるとして」の部分が省略されている。こういう断定しにくい表現は「やさしい日本語」には苦手なのだ。それでも津波なら、たとえ杞憂に終わっても避難を呼びかけることにためらいはない。しかし、「水道の水は飲めません」と書くことにはためらいがあるし、「水を飲んでも安全です」とも書きづらい。
 まあ、そういった点も含めて、私には面白い教材だった。